世のなか何事も順位をつけたがるもので、「世界三大オーケストラは~」とか「20世紀の最高指揮者は~」なんていうことをよく耳にします。ヴァイオリン協奏曲も例外ではなく、メンデルスゾーン、ベートーヴェン、ブラームスの作品が「三大ヴァイオリン協奏曲」と呼ばれ、それにチャイコフスキーを加えて「四大ヴァイオリン協奏曲」と呼ばれています。これらはいずれも個性豊かな素晴らしい作品ばかりであり、人気も高くコンサートで
よく取り上げられます。
それでは「五大- - -」となると誰の作品が候補に挙がるのでしょうか? 優雅な雰囲気に満ちたモーツアルト第3番が良いという方、いや華麗でロマンティックで超絶技巧のパガニーニ第1番が良いという方など様々でしょう! 今回は、M.ブルッフの第1番をお薦めしたいと思います。
マックス・ブルッフはロマン派後期のドイツの音楽家です。名前を初めて聞くという方が多いかもしれません。事実、彼が歴史に残した有名な曲というのはそれほど多くありません。今回ご紹介する『ヴァイオリン協奏曲第1番』が最も有名ですが、その他名の知られた作品は、 ヴァイオリンと管弦楽のための『スコットランド幻想曲』と、チェロと管弦楽のための『コル・ニドライ』 ぐらいでしょうか? それでは『ヴァイオリン協奏曲第1番』を、ヴァイオリン:五嶋みどり、指揮:M.ヤンソンス、ベルリンフィルでお届けします。特に、第2楽章(9分20秒~17分35秒)に注目してください。
この作品の面白いところは、第1楽章と第2楽章がアタッカ(楽章の境目を切れ目なく演奏)で繋がれていて、第1楽章が「前奏曲」と題されていることです。これはブルッフが第2楽章の素晴らしさを際立たせるために第1楽章に工夫を凝らした跡であり、第2楽章に如何に力を入れていたかを示すものです。それに違わず第2楽章は心に染み入る美しいメロディーです。そして第3楽章に「終曲」という表題がついていますが、これは独奏者に技術や個性を発揮させる個所なのでしょう!
この作品は1868年、当時の名ヴァイオリニスト、J.ヨアヒムの演奏で大成功裏に終わりました。ブルッフは1838年生まれ、ブラームス(1833年)とチャイコフスキー(1840年)の間です。ブラームスとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の完成が1878年ですから、ブルッフの曲はこの二人よりも早く発表されており、二人の作曲活動にも影響を与えたのではないでしょうか?
この二人の作品を含めた上記の「四大ヴァイオリン協奏曲」と比較すると、美しさはメンデルスゾーンに匹敵する素晴らしさであり、演奏の難易度はプロの発言を借りるとチャイコフスキーほど難しくなく、ブラームスのような荘厳さに溢れたものではなく、ベートーヴェンのような大作(~45分)ではなく(ブルッフ~25分)、これらの協奏曲に決して引けを取らない作品だと思います。
以上